【消費税】正社員を増やせば消費税が多額に発生する?

輸出還付金 に続きまして、「正社員を増やせば増やすほど消費税が多額に発生する」「消費税を節税するために派遣会社を利用している」という言説について、3月26日の国会質疑の中で、同種のテーマが取り上げられましたので、今回はこちらの件について考察してみたいと思います。(以下、国会議事録検索システムよりダウンロードして抜粋しました。)
Read More○櫻井祥子君 ありがとうございます。
消費税は法人税よりも経済に悪影響があるのではないかとお伝えしましたが、これ正規雇用の面で見ても、つまり安定した国民生活の面でも悪影響があることを少し確認しておきたいと思います。
いま一度この配付資料二を御覧いただきたいのですが、消費税の課税対象となるこの幅を確認しますと、実際人件費がどちらに入るのかというのが変わってきまして、今ここのインボイスのない経費の方に人件費と書いてあるのですが、これは正社員の場合はこちらに入るということでして、仮に同じ人を雇うのでも、業務委託の形式で雇うとなると、インボイスのある経費の方に入ります。つまり、人の雇い方で消費税の対象から外れるということになります。
会社を守るべき立場である経営者の目線に立てば、正規ではなく非正規の雇用を増やしたくなるというのが当然の帰結だと考えます。しかし、当然、こうした傾向が生まれますと、被雇用者や日本経済の視点からすれば悪い影響があるのは明らかです。
消費税の仕入れ税額控除に正規雇用は含めないが、非正規雇用は含まれることによる日本経済への影響について、政府の見解をお尋ねします。○政府参考人(竹田憲君) お答え申し上げます。
業務委託によって派遣労働を活用する企業ですけれども、業務委託先に対しまして、直接雇用の場合にも発生する労働者の給与等に相当する料金に加えまして、業務委託先に支払うべき消費税相当額が上乗せされた金額を支払ってございます。
そのため、当該企業が負担する消費税額につきましては、業務委託先に支払う消費税相当額を仕入れ税額控除した額に加えまして、業務委託先に支払う当該消費税相当額を合算した額となります。よって、結果的には、企業が負担する消費税額は業務委託と直接雇用を比較して同じというふうになりますので、損得は生じないものと承知してございます。
その上で、総務省の調査によりますと、派遣労働者数の数の推移でございますけれども、消費税率を八%引き上げました二〇一四年以前、以降と比較しましておおむね横ばいとなっておりますことからも、消費税が業務委託を増加させるインセンティブになってはいないと見ているところでございます。○櫻井祥子君 ありがとうございます。
第221回国会 参議院 経済産業委員会 第3号 令和8年3月26日
我が党の幹事長の安藤委員も度々申し上げているのですが、価格が本当に適正に決まっている上に消費税を乗せられているのだと、先ほど申し上げたことになるかと思いますが、実際には企業の上下関係などがあって適切に価格に上乗せできないという部分がある場合には、消費税が結局価格の一部で、きちんと消費税分が取れていないという可能性もあることを一応申し上げておきたいと思います。(後略)
まず結論から申し上げますと、仕入税額控除が派遣・業務委託を増加させるインセンティブになることはないと考えております。これまで全くなかったとまでは言い切れませんが(そのようなスキームを提案する不届き者がいた(撃退した)記憶はあります)、もし今現在そのような事業者がいるとすれば、従業員の方はすみやかに退職して、業務委託も遠慮されることをおすすめします。
さて、櫻井委員の前提ですが、給与(不課税)と同額の業務委託(課税)を比較、業務委託は消費税を内税で認識するという、現場としては考えづらい設定になっていると思います。委託先の法人/個人が特定されていませんが、派遣会社と仮定した場合、派遣会社が消費税相当を上乗せしない契約は考えづらく、竹田参考人の答弁はその意味では正しいと考えられます。但し、派遣会社のビジネス(報酬・手数料・社会保険料等)を考慮せずに比較を行っても、あまり意味のある検討とは思えないのが率直な印象です。(委託先が個人事業の場合は、内税で認識した上でインボイス事業者の登録をさせる前提でしょうか。)
また、正社員の人件費がインボイスのない経費に入っている(賃金は「資産の譲渡等」に該当しない)ことが不服であれば、インボイスのある経費に入れる=正社員の人件費を課税取引として認識し、正社員が納税することが対案となります。さらに、上記の業務委託の前提と平仄を合わせるなら、正社員が消費税相当を内税で負担することになりますが、そんなことが(労働法上)許容されるでしょうか。あるいは課税取引として認識はしないが(納税なし)、仕入税額控除だけさせて欲しいということなのか、いずれにせよ非常に違和感のある主張をされているように受け止めております。

出典:会計/税務/財務の情報
では派遣・業務委託のインセンティブは何なのか?ですが、事業者がコスト削減を求められる環境下で、固定費を抑制しつつ、必要なときに必要な(素養のある)労働力を確保するために、派遣・業務委託を活用してきたというのが弊職の認識で、その前提として、労働者派遣法等の規制が緩和されたこと、転職市場が拡大してきたことも大きいと思います。また、「必要なときに必要な労働力」に関連して、「マッチしなければ交代」「必要なくなれば解約」が可能であることが、派遣・業務委託の大きなメリットであると考えられます。なお、派遣・業務委託を最大化するというよりは、例えば所謂「紹介予定派遣」等により、いい人がいればコア人材として、優秀な正社員も採用したい、と考える事業者も多くいらっしゃるように拝見しております。
一方で、消費税が全く影響ないかといえば、特に中小規模の事業者を中心に、消費税が営業利益を圧迫していることもまた現実であり、これが人件費の抑制という形で非正規雇用化に作用しているものと推察しております。従いまして、「正社員を増やせば増やすほど消費税が多額に発生する」「消費税を節税するために派遣会社を利用している」は誤った言説ですが(正社員を増やしても利益は減るが消費税額は変わらない)、消費税が非正規雇用の増加に少なからず影響を与えてきたものと認識しております。(「消費税は賃上げを妨害している」についても間違いではないと思います。)

最後に、輸出還付金 とも共通して、税込経理で検討した結果、このような誤った認識が生じているのではないかと推察しております。税抜経理が消費税の本質を見えなくしているとのご指摘も一理ありますが、少なくとも大会社では税込経理が禁止されており(収益認識基準)、税抜経理でも丁寧な検討・説明が必要ではないかと考えております。それが出来なければ、今後、このテーマで専門家・実務家から賛同を得ることは難しいかもしれません。(最終損益及び税額は税抜・税込どちらでも同額になります。)
エシックス&プランニング株式会社
代表取締役 澤村 喜久男
